「…身体は、大丈夫…」
疼いて仕方がない、なんて言えるわけがなかった。
彼の視線から顔を背けるように俯く。
すると、手首を握っていた藍忘機の右手が魏無羨の手のひらへと移った。
焦りなのか、緊張なのか、または別の感情なのか、魏無羨自身にもわからなかったが、手のひらにはしっとりと汗が浮かんでいた。
藍忘機の冷えた指先がそこをなぞるとピクッと手が震える。
「身体が熱い。本当に問題ないのか?熱があるのでは?」
「だい、じょうぶ、だって…っ!」
ひやりと額に冷たいものが当たる。
まるで熱が本当にないのかを確認するように手を当てられ、大袈裟にびくんっと身体が飛び跳ねてしまった。
ただ彼の手が額に当てられただけなのにドキドキと心臓の鼓動は早まっていき、脳内処理が追い付かずに何故かじわりと涙が瞳に浮かんできてしまう。
「らん、じゃっ、本当にやめっ…んぅっ⁉」
彼の手から逃れるように後ろへと身を引こうとしたのだが、魏無羨が動くのよりも早く、藍忘機は魏無羨の腰を捉えた。
そして、逃げる間もなく、唇が彼の唇によって塞がれてしまう。
熱い舌が口内を舐めていく感覚に身体がぴくぴくと震え、あの時の、無理矢理ヤられたときの記憶が蘇ってくる。
(…逃げなきゃ…けど…藍湛の口付け…気持ち良い…)
あの時もそうだった。
身体は痛くて、逃げたくてしょうがなかったはずなのに、彼の口付けはとても気持ちが良かった。
そして、魏無羨はもっと欲しいと求めてしまった。
今回もまた――
「んっ…ぅっ…ふ、ぁ…っ…ら、ん…じゃっ……もっと…」
「うん」
頭を掻き抱くように手で抑え込まれ、口付けを深くされる。
彼の乱暴な手付きによって、髪を結んでいた赤い髪紐がぱさりと地面に落ちるのが目の端に映った。
(あとで…拾わなきゃ…)
髪紐に気を取られたことが気に食わなかったのか、藍忘機は魏無羨の下唇にがぶっと嚙みついた。
僅かな痛みを感じて眉間に皺を寄せる。
そして、その痛みで快感の波から僅かに意識が浮上し、同時にここが外であることを思い出した。
このまま流されたらまずい!
そう思って藍忘機の両肩を両手で押したのだが、彼はそれを許さないというように口付けをしながら近くの木に魏無羨の身体を押しつけた。
「んーっ、んんーっ!」
本当にこのままここで続けるつもりなのかと塞がれた口内で呻き声を上げる。
どんどんと彼の肩を手で叩いて止めさせようとするものの、その手を煩わしく思ったのか、彼は再び下唇をがぶっと噛んだ。
「んんっ!」
じわっと涙を浮かべるとやっとのことで唇が解放される。
今が逃げるチャンスだと思ったものの、口付けだけですっかり腰が抜けてしまい、その場から動くことができなくなってしまった。
「ら、んじゃんっ…!ここ、外だ…って、待っ…!」
ふーっふーっと息を荒げて完全に理性をなくしてしまった様子の藍忘機は素早く自身の額に巻かれていた抹額を外した。
あの時と同じだ。
その抹額は魏無羨が逃げる間もなく、両手を素早く縛り上げた。
「藍湛っ、誰か来たらどうすっ…んぅっ!」
藍忘機の右手が魏無羨の抗議する口を覆った。
そして彼の顔が耳元へと近付き、信じられないことを囁いてくる。
「君が声を我慢すれば気付かれない」
「んーっ!」
大きく目を見開き、その場から逃げようとするものの、藍忘機は魏無羨の腰を掴んでくるりと身体を反転させた。
目の前に木、背後に藍忘機。
嫌な予感に冷や汗がたらりとこめかみを流れ落ちていく。
こんなところで何かされたらたまったもんじゃないと、首を後ろに振り向けたのと、下半身に冷えた外気を感じたのはほぼ同時だった。
「なっ…⁉」
衣が脱がされ、白くて丸い臀部が露出させられる。
彼の手はそのまま慎ましく閉じている蕾を曝け出そうと双丘を左右に割り開いてきた。
力を入れて阻止しようとしたが、藍忘機の手の力に敵うわけがなかった。
あの時は散々虐められて赤く腫れてしまっていたが、今は時間が経ったことで腫れは引き、薄紅色に戻った蕾が物欲しげにひくひくと収縮を繰り返している。
「本当にやめっ…ひぅっ…!」
つぷっ…
一本の指が蕾の中央へと差し込まれる。
抵抗したい気持ちとは裏腹にその場所は藍忘機の指を喜ぶかのように絡みつき、奥へ奥へと誘おうとしている。
「ゃ…ぁ…」
目の前の木に縛られた手を押し付け、ぷるぷると身体を震わせながら声が漏れないように耐えようとしたのだが、無情にも藍忘機の指先が内部の敏感な場所をトンッと叩いてきた。
「あぁっ…!」
トンッ トンッ
こすっ こすっ
「ゃ、やぁっ…やめっ…ぁあっ…」
叩かれたり擦られたりと強弱を付けた刺激を繰り返され、腰が勝手に揺れ動いてしまう。
そのうえ、触られてもいないのに陰茎が勃ち上がり、地面にぽたっぽたっと先走りの液体を零していた。
「魏嬰、本当のことを教えて」
「ふっ、ぁっ…?」
耳元で囁かれた言葉にそちらのほうへとチラッと視線を向ける。
美しく整った顔がすぐ傍にあり、この顔だけ見たら他人の尻に指を突っ込んで前立腺を弄っているなんて到底思えないだろう。
しかし、彼の指は確実に魏無羨のことを追い詰めており、その絶妙な力加減はイくにイけないもどかしい気持ちを増長させていた。
「身体は本当に問題なかったのか?」
「っ…」
ぐっと唇を噛みしめ、彼の視線から顔を逸らせようとすると、中に入った指がぐいっと強い力で前立腺を押し上げてきた。
「ゃ、あぁっ!」
「魏嬰、教えて。あのあと君の身体に何があったのか」
ぐりっ ぐりっ
「ぁっ、あぁっ…ないっ…なにもっ…っ…ないっ…」
「本当?」
「んっ…ほん、とっ…」
「……」
藍忘機が無言になり、それと同時に前立腺を弄っていた指がずるりと引き抜かれた。
あと少しで達しそうだった身体から突然快感が奪われ、魏無羨は一瞬何が起こったのか理解ができなかった。
呼吸は乱れ、陰茎はふるふると震え、瞳にじわりと涙が浮かぶ。
自分で弄ろうにも両手は抹額で縛られてしまっているうえに、魏無羨自身が目の前の木にその手を強く押し付けてしまっていた。
今この手を離したらきっと自重を支えられずに倒れてしまう。
出したい、出したい、出したい
寸止めをされた思考は出すことしか考えられず、魏無羨は無意識のうちに尻を揺らしてしまっていた。
パシンッ
「っ⁉」
突然響き渡った肌を叩く乾いた音。
音に驚いていると、次第にじわじわとした熱が広がっていく。
その場所は曝け出された尻だ。
藍忘機の手が魏無羨の尻を平手で叩いたのだ。
「なんっ…ひっ!」
パシンッ
再び響き渡る音。
その音は先程よりも大きくなっており、尻に広がる熱もひどくなる。
「やめっ、藍湛っ、やだっ…!」
尻を叩かれるなんて冗談じゃない。
必死に動かして逃げようとするものの、それは藍忘機の視点からしたら全くの逆効果だった。
白い尻に赤い跡が広がり、それが左右に揺れ動いている。
藍忘機はごくりと息を飲み込み、ゆっくりと、もう一度魏無羨に問いかけた。
「本当に、身体に異変はなかったのだな…」
「っ…だからっ、何度もそう言ってっ……ひぁっ⁉」
ずぷっ
指とは違う、もっと太いもの。
それが蕾に押し当てられ、そして、中を割り開いてくる。
「ゃ、あぁっ!なんでっ、ゃあっ!」
「くっ…君が嘘をつくからだ…」
ずぷぷっ
「あぁぁっ、うそなんてっ、ついてなっ」
「ではっ、何故こんなにも簡単に挿入るっ」
「ぇ、あっ…それはっ…あぁぁっ!」
ばちゅんっ
肌と肌がぶつかり合う音が響き渡る。
藍忘機のものが最奥まで一気に押し込まれ、魏無羨ははくはくと唇を動かしながら身体を激しく震わせた。
指一本でしか慣らされていなかったその場所は本来ならもっと抵抗するはずであり、こんなにも簡単に挿入らないはずだ。
しかし、藍忘機の言うようにそこは抵抗なく、すんなりと奥まで飲み込んでしまった。
「ぁ…や、ぁ…ふかっ…」
「魏嬰、答えて」
「やっ、ゃぁ…」
「……では、私が教えよう」
「えっ…?」
藍忘機は一体、今、何を言ったんだ。
私が教えよう……?
魏無羨が頑なに口にしなかったことを藍忘機は知っていたとでも言うのか?
状況についていけずにいると、藍忘機の腰が引かれ、再びパンッと肌を叩いてきた。
「あぁっ!」
「あの日以来、亥の刻を過ぎると君の部屋から声が聞こえてくるようになった」
「っ…⁉」
「声を抑えていたようだが、私の名前を呼んでいた。魏嬰、何をしていた」
「それはっ……ひっ!」
魏無羨が言い淀んでいると藍忘機の手が勃起した魏無羨の陰茎をぎゅっと握った。
根本を締め付けるような形で握られ、このままでは射精したくてもできなくなってしまう。
そのうえ、中に挿入った陽物が狙ったかのように前立腺を擦り上げてきて強すぎる快感に襲われる。
「あ、ぁあっ…ゃ、あっ…らんじゃっ、手、はなしっ、やあぁっ…」
ふるふると首を振って抵抗を見せるものの、藍忘機はより締め付ける力を強め、腰の動きを激しくしてきた。
ばちゅっばちゅっと結合部からの音が大きくなり、ガクガクと脚が震える。
「答えて」
「あっ、ぁあっ、言う、言うからぁっ…」
ぼろぼろと涙が零れ落ち、歪んだ視界の中に藍忘機に握られた陰茎が映る。
その手が早く言うことを促すようにぐりっと裏筋を擦り上げ、魏無羨はぎゅっと一度強く唇を噛んだ。
そして、震える声を漏らした。
「っ…お前のことっ、考えながら…一人でシたぁっ…」
「どうして?」
「ん、ぁっ…あのとき…気持ち、良かったからぁっ…んっ…言ったからっ、ゆるしてっ」
前だけでは足りずに後ろも使って一人でシていたことがバレてしまい、恥ずかしさもあったが、それよりも今は早く解放してほしかった。
魏無羨の言葉に一瞬だけ陰茎を握る力が弱まったが、それはすぐに戒めの力を強めてきた。
彼の行動が理解できずに目を見開くと、絶望的な一言が耳元で囁かれた。
「嘘を付いた罰は受けてもらう。このままイって」
「えっ、ゃ、あぁぁぁっ!」
藍忘機は陰茎を締め付ける手を離すことなく、突き上げの激しさを増した。
ばちゅっ ばちゅっ
「あ、あぁっ、やぁっ、イっちゃ、やらぁぁっ」
「くっ…!」
ばちゅんっ!
「あぁぁぁっ!」
最奥を突き上げられた瞬間、ビクビクッと激しく身体が震え、目の前にチカチカと白い光が瞬いた。
根本を締め付けられた陰茎からは精液が出ることがなく、留められたものがぐるぐると回るような感覚に、全身に力が入る。
そして、身体の奥深くに熱いものが叩きつけられる。
「ぁ…ゃ…ぁっ…」
言葉にならない声を零しながら脱力すると陰茎から藍忘機の手が離され、堰き止められていた勢いのない精液がぼたぼたと地面に落ちていく。
完全に身体に力が入らなくなってしまい、はぁはぁと肩で荒い呼吸を繰り返していると陽物が入った状態のまま、後ろへぐっと身体を引っ張られた。
耳元に藍忘機の荒く熱い息がかかり、そのまま意識を飛ばしてしまいそうになったが、次に聞こえてきた言葉に魏無羨は目を見開いた。
「魏嬰、君は何回嘘をついた」
「ぇ…」
藍忘機に問いかけられる度に何もなかったと言い張り続けた。
回数なんて覚えていない。
しかし、これを彼が聞いてきたことに嫌な汗が流れてくる。
そして、耳元ではっきりとした口調で告げられた。
「魏嬰、嘘をついた分、お仕置き」
ぐちゅんっ
「――ッ!」
―お仕置きEND―