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ガサッ
草木の陰から周囲を見回し誰もいないことを確認する。
魏無羨の右手にあるのは酒だ。
ここ、雲深不知処で酒が禁止されているのは周知の事実だが、魏無羨はこっそりと抜け出して酒を買いに行き、今戻ってきたところだった。
雲深不知処での座学が始まった当初、今と同じように酒を持ち込み、藍忘機に見つかったときのことを思い出す。
あの時もまさか藍忘機に見つかるなんて思っていなかったが、今日はあの時以上に見つかってはいけない理由があった。
ずくんっ
「っ…」
腹の奥深くが疼く感覚に眉を顰める。
数日前の蔵書閣、藍忘機に犯された。
自分が抱かれる立場になるなんて思ってもみなかった。
そのうえ、無理矢理だったのにも関わらず快感を得てしまったなんて。
「くそっ…」
あの日から魏無羨は藍忘機のことを避けていた。
あんなことがあったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、以前までの接し方を忘れてしまい、顔を合わせたところで何を話せば良いのかわからなくなってしまったのだ。

再度周囲を見渡し、誰もいないことを確認してから部屋へ戻ろうと足を踏み出した瞬間。
「なっ…⁉」
背後から強い力で手首を掴まれる。
驚いてパッと振り向いたその視線の先にいたのは…
「藍湛…なんでここに…」
人の気配なんてなかったはずなのに、そこには今一番会いたくないと思っていた藍忘機が立っていた。
その表情は怒りを浮かべているように眉間に皺を寄せており、掴まれた手首を更に強くギリッと掴まれる。
「痛っ…」
痣になってしまうのではないかと思うほど強く掴まれ、魏無羨は顔を顰めた。
そして、取った行動は―

 

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