「離せっ!」
魏無羨は力強く掴まれていた手を振り払った。
バサッと衣が空を切る音が響き、キッと藍忘機を睨みつける。
彼は振り払われた自身の手を呆然と見つめており、その手を握りしめたあと何も言わず魏無羨に背を向けた。
「……すまなかった」
小さく呟かれたその言葉は何処か震えているようにも聞こえ、魏無羨の心に若干の罪悪感が生まれる。
あそこまで強く振り払わなくても良かったかもしれない。
拒絶してしまったことを謝ろうかと彼の背中に手を伸ばしたのだが、その手は彼に届くことがなかった。
藍忘機は振り向くことなく、その場を立ち去ってしまったからだ。
一人残された魏無羨は伸ばした自身の手を力なく下ろし、詰めていた息を吐き出す。
(…明日、謝ろう…)
藍忘機の話を聞こうともせずに振り払ってしまったことを後悔し、魏無羨はとぼとぼと自身の部屋へと戻っていった。
それから数日―
謝ろうと決意をしたものの、手を振り払ってしまった翌日から藍忘機と顔を合わせることなく数日が経ってしまっていた。
彼は座学にも姿を現さず、兄である藍曦臣に尋ねてみたところ、どうやら静室に篭っているようだった。
これは明らかに避けられている。
蔵書閣の一件以来、一時期は魏無羨が藍忘機のことを避けていたのに、今度は彼が魏無羨のことを避け始めたのだ。
立場が逆転したと思うと魏無羨の苛立ちは次第に増していった。
お互いあんなことはなかったことにできる良い機会だと自分自身に言い聞かせようとするものの、日が経てば経つほどにあの時の記憶が強く蘇ってしまい、ついに魏無羨は行動を起こすことにした。
静室に篭っていると言っても真面目な彼は修行を怠らないはずだ。
きっと冷泉に行けば彼は現れる。
魏無羨はその考えに至ると早速冷泉へと向かった。
ガサッ
木の陰に隠れ、冷泉のほうへと視線を向ける。
そこには魏無羨の予想した通り藍忘機がいた。
まさかこんなタイミングよく彼がいるとは思わなかったが、無駄に待つ羽目にならなくて良かったと一つ息を吐く。
数日ぶりに見た彼はいつもと変わらぬ仏頂面であり、何を考えているのかは読めない。
魏無羨はどのようにして彼に近付こうかと思考を巡らせた。
そして取った行動は―